大判例

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東京高等裁判所 平成6年(ネ)4310号 判決

控訴人(原告)

根塚行夫

ほか一名

被控訴人

主文

一1  原判決主文二項中、控訴人根塚行夫の金一六六九万五三八四円を超え金一八三九万五三八四円に至るまでの金員及びこれに対する平成二年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を取り消す。

2  被控訴人は控訴人根塚行夫に対し金一七〇万円及びこれに対する平成二年五月八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二1  原判決主文二項中、控訴人根塚朝惠の金一五七三万二六三七円を超え金一七二三万二六三七円に至るまでの金員及びこれに対する平成二年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を取り消す。

2  被控訴人は控訴人根塚朝惠に対し金一五〇万円及びこれに対する平成二年五月八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らのその余の各控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

五  この判決は、第一、二項の各2に限り、仮に執行することができる。ただし、被控訴人が控訴人根塚行夫に対し金九〇万円、同根塚朝惠に対し金八万円の各担保を供したときは、右仮執行を免れることができる。

事実

一  申立て

1  控訴人根塚行夫(以下「控訴人行夫」という)

「原判決中控訴人行夫敗訴部分を取り消す。被控訴人は控訴人行夫に対し、金三七三一万〇一六一円及びこれに対する平成二年五月八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え」との判決及び仮執行宣言。

2  控訴人根塚朝惠(以下「控訴人朝惠」という)

「原判決中控訴人朝惠敗訴部分を取り消す。被控訴人は控訴人朝惠に対し、金三一九五万六〇九七円及びこれに対する平成二年五月八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え」との判決及び仮執行宣言。

3  被控訴人

「本件各控訴を棄却する」との判決及び仮執行免脱宣言。

二  当事者の主張

控訴人らの主張として次のとおり付加し、被控訴人はこれを争うと述べた他、原判決中の事実摘示部分と同じであるから、これを引用する。

1  控訴人行夫

原判決は、加害者であるブライアン・J・ロジヤース(以下「ロジヤース」という)の供述調書の記載に信用性がないのに、これを採用してロジヤースと被害者である根塚健一郎(以下「健一郎」という)の過失割合を認定しているが、これは事実誤認に基づいて過失割合を認定したものであり、取り消されるべきである。また、健一郎の被つた損害の金額についても、逸失利益の計算に控訴人行夫が主張していないライプニツツ係数を用いて計算しており、弁論主義に反するし、慰謝料の金額についても、本件では加害車両に自賠責保険の付保が強制されていない等の特別な事情があり、これらを考慮すれば、原判決の金額は低額すぎて取消しを免れない。

2  控訴人朝惠

健一郎が酒を飲んでいたはずはない。被控訴人が提出している証拠は不鮮明な写真の写し等が多く、疑問がある。

三  証拠

原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件事故態様及びその結果(相続を含む)、本件事故ではロジヤース及び健一郎の双方に過失があると認められること、その過失割合、並びに損害額については、次のとおり一部付加ないし敷衍し、また損害額の一部を変更する他、原判決中の理由説示部分のとおりであると考える(但し、原判決一六丁表四行目に「〇・九五二三円」とある「円」を削る)から、これを引用する。

1  控訴人行夫の事実誤認の主張については、原判決挙示の各証拠によれば、原判決認定の事実が認められるのであつて、これが事実誤認であるということはできない。なるほど、原審証人座安亨の証言や同人の供述調書中には、ロジヤース運転車両の速度について、原判決認定の速度より速いとの趣旨の供述部分があるが、同証人も、夜間、対向してくるロジヤース運転車両を見、あるいはその後擦れ違つたロジヤース運転車両をバックミラーで見て判断した同車両の速度を述べているものであつて、これがどれほど正確なものかについては疑問があり(現実に、同証人は、夜間であり、距離関係についてはよく分からないとの趣旨の証言をもしているところ、距離関係は、速度を判断する際に重要な要素となるものであるから、この点からも、同証言や同供述部分だけが信用性の高いものであるということはできない)、原判決の認定が揺らぐものではない。

その他、当事者の主張がないにも係わらず、裁判所がライプニツツ係数を採用したからといつて、弁論主義違反の問題が生ずることはなく、控訴人の主張は採用できない。

2  控訴人朝惠の主張中、健一郎の飲酒については、原判決摘示の証拠によつて原判決認定のとおり認められる。また、被控訴人提出証拠については、疑問があると断定することはできない。

3  原判決一六丁表五行目から同一〇行目までを次のとおり変更する。

「2 健一郎の慰謝料 一六〇〇万円

健一郎は、本件事故によつて死亡したことにより精神的苦痛を被つたことが認められる。しかも、その苦痛は、原判決摘示のとおり、健一郎が、公務員行政職を目指して、東京アカデミー東京法科大学校に通学していたが、その希望を、本件事故によつて無残に奪われてしまつたことの他、本件事故は、ロジヤースが、座安車からパツシング等による注意喚起を受けたのに、健一郎の存在に気が付かず、惹起したものであつて、客観的に見れば、路上に横臥していた健一郎にも重大な過失があり、原判決摘示のロジヤースと健一郎の過失割合は相当であるが、健一郎から見れば、ロジヤースに大きな過失があると考えても致し方ないと考えられる部分もあること、その他、本件事故の態様、健一郎の年令、後記のとおり控訴人らにも慰謝料を認めること等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、死亡により同人が被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、一六〇〇万円と認めるのが相当である。」

4  原判決一七丁表八行目から一八丁表三行目まで(損害認定の欄の5項ないし7項)を次のとおり変更する。

「5 控訴人ら固有の慰謝料 各三〇〇万円

控訴人らは、健一郎が死亡したことにより精神的苦痛を被つたことが認められるところ、控訴人らは、本件事故態様について種々の疑問点があると考えており、通常であれば加害者であるロジヤースを証人等として尋問し、その疑問点を解明する等の手段を採ることができるが、本件の場合には、ロジヤースが在日米軍所属の軍人であるため、そのような手段を採ることができない状況にあること、健一郎は、本件事故に遭遇した後、一〇分程で救急車が駆けつけたものの、即死の状態であると判断されたため、直ちに収容されることなく、小雨の降る路上に放置されていたこと、その他本件事故の態様等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件事故によつて控訴人らが被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、各三〇〇万円と認めるのが相当である。

6  以上によれば、健一郎の損害合計は、五七三三万〇五五〇円となり、控訴人らはこれを二分の一ずつ相続したので、控訴人行夫固有の損害四七二万五四九三円を加えると同人の総損害額は三三三九万〇七六八円、控訴人朝惠の固有の損害三〇〇万円を加えると同人の総損害額は三一六六万五二七五円となるところ、これらに五割の過失相殺を行うと、控訴人行夫の損害合計額が一六六九万五三八四円、控訴人朝惠の損害合計額が一五八三万二六三七円(円未満切捨て)となる。

7  弁護士費用 三一〇万円

弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、第一審において、控訴人行夫訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払いを約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、右訴訟代理人らは、控訴提起後、控訴人朝惠については訴訟代理人を辞任していること、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、本件事故と因果関係のある弁護士費用相当の損害は、控訴人行夫について一七〇万円、控訴人朝惠について一四〇万円と認めるのが相当である。」

二  よつて、原判決主文二項中、控訴人根塚行夫の請求について、金一六六九万五三八四円を超え金一八三九万五三八四円までの金員及びこれに対する平成二年五月八日から支払済まで年五分の割合による金員の支払いを棄却した部分は相当でないから、これを取り消して、被控訴人が控訴人根塚行夫に対し金一七〇万円及びこれに対する平成二年五月八日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払うことを命じ、また、原判決主文二項中、控訴人根塚朝惠の請求について、金一五七三万二六三七円を超え金一七二三万二六三七円までの金員及びこれに対する平成二年五月八日から支払済まで年五分の割合による金員の支払いを棄却した部分は相当でないから、これを取り消して、被控訴人が控訴人根塚朝惠に対し金一五〇万円及びこれに対する平成二年五月八日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払うことを命じ、控訴人らのその余の各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九三条、九二条、八九条、仮執行宣言及び仮執行免脱宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宍戸達德 伊藤瑩子 佃浩一)

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